―――  三ヶ月の恋人 3  ――― 



 どうした訳か速水がよそよそしい。
 マヤが作った弁当も上の空で速水は食べている。話しかけても気のない返事しか返って来ない。
あまり美味しくなかったのだろうかと、マヤは心配になる。
 ダイニングテーブルを挟んで向き合う格好で速水と座っていた。
マヤは最後のタコさんウィンナーを口に運ぶ速水に視線を向ける。
表情が読めない。何を考えているの?と聞きたくなる。
 別荘についてから急に素っ気無くなった。
何かいけない事を口にしたのかと、考えを巡らせるが思い当たる事は一つもない。
「……速水さん」
 思い切って呼びかけてみるが、反応はない。
まるでマヤの存在を無視するような態度に悲しくなってくる。
 映画の撮影が終わるまで速水は恋人になると言っていたが、所詮それは偽りの関係だ。
速水の心がどこにあるのかマヤにはわからない。
優しかったと思ったら、急に冷たくなる。その距離感がわからない。
 焦りと戸惑いが不安を大きくする。別荘に着くまではあんなに楽しかったのに、速水にそっぽを向かれれば、
こんなに居心地が悪くなるなんて思わなかった。
 結局、速水のペースに巻き込まれているだけなのだ。
 段々、腹が立って来た。なぜ自分が速水に合わせなければならないのだ。
星を見に行こうと言ったのは速水だ。それに付き合ってわざわざ来たのに、
人を無視するような態度は意味がわからない。
せっかく作った弁当も、つまらなそうに食べられては朝五時に起きた苦労が水の泡だ。
マヤの怒りのボルテージが上がる。
「もういいです!」
 我慢の限界に達するとマヤはテーブルをバンと両手で叩き立ち上がった。
「えっ」
 ようやく速水がマヤを見る。
「帰ります」
 席から立ち上がると、マヤはリビングに置いたままの旅行鞄を手に持つ。
「おっ、おい」
 慌てて速水が立ち上がる。
「私と一緒だと速水さんも気が休まらないと思いますから。それじゃあ」
 マヤは勢いよくリビングのドアを閉めると、玄関に急いだ。
頭に血が上っていた。一刻も早く速水の側を離れたい。
サンダルを履くと、玄関のドアを乱暴に開けた。
「待ちなさい」
 速水が追いかけて来る。速水はマヤの腕を掴んだ。
強い力で引っ張られマヤは速水の腕の中に引き戻される。
「ちびちゃん、一体どうしたんだ」
 心配そうに速水がマヤを見る。
速水の言葉にムカつく。どうしたもこうしたもない!先にケンカを売って来たのは速水だ!
「放して下さい!帰るんです!」
 キツイ目で速水を見上げる。速水は戸惑ったようにマヤを見ていた。
「帰るって、来たばかりじゃないか」
「イライラするんです」
「何が?」
「速水さんが」
「俺が何をした?」
「わからないんですか?」
「言ってくれなきゃわからない」
「……私を無視した」
 速水がしまったという顔をする。
マヤは悲しい気持ちでいっぱいになる。
「そんなつもりはないのだけど。少し考え事をしていただけだ」
「考え事をしたいなら、好きなだけどうぞ。私は帰りますから」
「そんな事言わないでくれ。悪かった。そうだ。海に行こう。水着持って来たんだろう?
この辺りのビーチは眺めもいいし、人もあまり来ない。カニが見たいって言ってたじゃないか。
ここまで来て海に行かないなんて勿体ないぞ。帰るのは海に行ってからでもいいんじゃないか」
 必死に速水が取り繕う。
まだマヤの怒りはおさまらないが、海には行ってみたかった。
「そうですね。じゃあ、少しだけ海に行って、それから帰ります」
「あぁ、わかった。それじゃあ、仕度しよう」




 速水はマヤを連れて浜辺まで来た。別荘からは徒歩十分の距離だ。
白い砂浜の上をビーチサンダルのマヤが熱そうに歩く。
太陽の熱で夏は素足では歩けない程になる。
 速水はビーチパラソルを適当な場所に立て、レジャーシートを敷いた。
「俺たちの基地が出来たぞ」
 冗談めかしてマヤに言うがニコリともしない。
 まだ損ねた機嫌は直らないらしい。
一度ヘソを曲げると女性の扱いは難しい、という教訓は過去の恋人たちから得たものだ。マヤも例外ではない。
「泳いで来ます」
 マヤはパーカーを脱ぐと水着だけの姿になる。
意外にもビキニだ。思わず胸やウエストラインに目がいく。
思ったよりも腰が細く、お尻は丁度良い丸さがある。
海に向かうマヤの後姿を見ながら、つい余計な観察をしてしまう。
これは男の性だ。しかし、マヤ相手にイヤらしい気持ちにはならない。
そこは大人の男としてちゃんとブレーキはかけてある。
 波打ち際まで来るとマヤが気持ち良さそうに波と戯れている。
そんな姿が可愛い。速水は水着の上にTシャツを着たままの姿でマヤの方に歩く。
そして、マヤの側まで来ると、思いっきり水をかけた。
マヤが「きゃっ」と声を出す。
「ほら、もっとだ」と童心に返り速水はマヤに水をかける。
「やったな」
 マヤも応戦する。二人で髪の毛が濡れる程、掛け合った。
マヤの笑顔を見て、速水はホッとする。
「速水さん、泳ごう」
 マヤが海にばしゃんと飛び込んで泳ぎ出す。
速水はTシャツを浜辺に投げ捨てると、マヤの後を追いかける。何だか楽しい。
「あんまり遠くに行くなよ。泳ぎは得意じゃないんだろう?」
「少しぐらい泳げます」
 ムキになってマヤが泳ぐ速度を上げる。分かり易い反応に笑いたくなった。
 しばらくマヤの泳ぎを見ていた。少し危なっかしいが、泳げている。
そういえば芝居のチケット欲しさに真冬の海に飛び込んだと聞いた事がある。
本当なのだろうか。そんな事を考えていると大きな波が目に留まった。
あっと思った瞬間、高波がマヤを飲み込んだ。
「ちびちゃん!」
 速水はマヤに向かって全速力で泳ぐ。
「は、速水さん、助けて」
 マヤの泣きそうな声がする。
波の上に浮んでいたマヤが海の中に沈んでいく。待て、待ってくれと、速水はなりふり構わず潜った。
水が鉛のように重い。波の速さに速水も流されそうになるが、歯を食いしばる。
 一メートル先でマヤが苦しそうにもがいている姿が見えた。
早く助けなければと、気持ちが張り詰める。
 マヤが速水の方に手を伸ばすが、届かない。
くそっ、自分の力不足に腹が立つ。何度目かの挑戦でやっと速水はマヤの腕を掴んだ。
 マヤを引き寄せ胸に抱きとめると、波の上に浮んだ。
マヤは意識を失い、青白い顔をしていた。マヤを抱え浜辺まで泳ぐ。
絶対マヤを死なせない。マヤは俺が助けると無我夢中で泳いだ。
 浜辺に上がるとマヤを横にして人工呼吸を試みる。体中の空気をマヤの唇に向けて吐き出し、
心臓をマッサージする。それを二回繰り返した所で、マヤが目を開ける。
丁度唇と唇が触れている時だ。
マヤは驚いて平手で速水の頬を叩いた。
「いてっ」
 速水は殴られた頬をさすりながら、良かったと思う。心の底から安堵した。
「な、何してるんですか!」
 マヤは起き上がり速水を睨む。
「人工呼吸をしていただけだ。君が溺れて意識を失っていたから」
「えっ」
「君こそ心配かけるな。肝が冷えたぞ」
「……すみません」
「でも、良かった。無事で」
 速水はくしゃりとマヤの頭を撫でる。
 マヤが大切な存在だと実感した。
マヤを助けようと無我夢中で泳いでいる時、いつもの冷静さはなく、ただ一心に泳ぐ事だけを考えた。
「……本当に良かった」
 速水はマヤを抱き締める。今ここにいるマヤの小さな体を感じていたかった。
じゃないと安心できない。あんな恐い思いはもう二度としたくない。
「は、速水さん、苦しい」
 力強い抱擁にマヤが手をバタバタとさせる。
構わず速水はマヤを抱き締め続ける。
「この俺を心配させた罰だ」
「えっ」
「心配したんだ。本当に」
 速水の言葉にマヤは何も言えなくなる。暫く二人はそのままでいた。




 夕陽が海を照らすのをマヤはビーチパラソルの下に座って、眺めていた。
隣りには速水がいる。ちらりと速水の方を見ると横顔が茜色に染まっていた。
大人の男性の哀愁のようなものを感じて、マヤはドキっとする。
 溺れた時、自分の方へと向かってくる速水が、一筋の希望の光に見えた。
逞しい腕に助け上げられた時、マヤは今まで速水に感じた事のない感情を持った。
 目が覚めた時に近くに速水の顔があって、これ以上ない程ドキドキした。
それから速水の顔を真っ直ぐに見られなくなっている。
そのクセ側にいたい。一体この気持ちは何なのか。
「どうした?」
 速水がマヤの視線に気づく。
目が合うとマヤは慌てて逸らす。頬が熱い。
「……な、何でもないです」
 緊張で声が小さくなる。速水の顔を見れず、砂浜に視線を向けた。
速水と一緒に作った砂の城が波に削られ、半分壊れていた。
 砂遊びをしていた時の速水の無邪気な表情を思い出し、また胸がキュンとする。
「今日はあっという間に感じたな」
 速水が呟く。耳に響く低い声をマヤは心地よく思う。
「私もです」
「仕事をしている時はそんな事ないのにな」
 速水が柔らかな笑顔を浮べる。その笑顔に胸がいっぱいになった。
「そういえば、帰るって言っていたけど、本当に帰るのか?」
「えっ」
 そんな事言っていたのをすっかり忘れていた。
帰るなんて嫌だ。もっと速水といたい。しかし、照れくさくて口に出来ない。
 マヤは無言のまま俯いた。
「冗談だよ。君がもう帰る気がない事はわかっているよ。
予定通り今夜はテラスで星を見よう。メインイベントはまだ終わってないぞ」
 速水はポンとマヤの頭に触れる。マヤは息が止まりそうになる。
「そろそろ、行こうか」
 速水は立ち上がるとマヤに手を差し出す。マヤはその手を取った。
温かくて大きな手だ。ずっとこの手に繋がれていたいと思う。
昨日まではそんな事思わなかったのに、気持ちの変化に戸惑いを感じる。
 速水に恋人になると言われた時は映画の為だと渋々了解するしかなかった。
 突然出来た恋人はマヤを憂鬱にさせる存在でしかなかった。
 十一歳年上の速水を恐いと思っていたが、今は違う。
少しでも長く一緒にいたい。自分でも信じられない変化だ。
「何を考えている?」
 歩きながら速水がマヤを見る。
「何でもないです」
「何だ?俺には言えない事か?」
「さぁ、どうでしょうね」
マヤが笑う。
「きっと酷い事考えていたんだろうな。冷血仕事虫とか」
「そんな事思ってませんよ。今は」
「普段は思ってるのか?」
「まぁ」
「君は素直だな」
 速水が苦笑を浮かべる。
「いいさ。俺も普段の行いは悪いからな」
「自覚してるんですね」
「君と違って大人だからな。客観的に自分の事を見る目は持っている」
「それって、何か遠まわしに私の事バカにしてません?」
マヤが眉を潜める。
「さぁ、どうだろう」
 クスリと速水が笑う。マヤはぶすっとした顔をする。
その顔に速水が笑い転げる。いつもだったら怒る所だけど、今は笑われるのもいい気がした。
マヤも一緒に笑っていた。



 別荘に戻るとディナーの準備が整っていた。
速水が東京で懇意にしているレストランのシェフを呼んだのだ。
今夜はウェイター付きで伊豆まで出張料理をしに来てくれた。メニューはフランス料理のフルコースだ。
 テーブルのセッティングがされたダイニングはすっかりフレンチレストランの風情を出していた。
 水玉のワンピースに着替えたマヤは緊張した様子でテーブルにつく。
 速水はお気に入りのワインを取り出し、マヤのグラスにも注いだ。
「あの、私お酒は」
「わかっている。雰囲気だ」
 速水が笑う。
「お願いします」と速水が、台所の方に声をかけると、ウェイターが前菜を持ってやって来る。
 白い皿の上には色とりどりの野菜とサーモンが盛られていた。
「可愛い」
 マヤが嬉しそうに微笑む。その笑顔を見て速水も満足気に笑う。
11も年下のマヤといて、気持ちが安らぐ。
こんなに誰かといて楽しいと思った事はない。速水の冗談にマヤが笑う。
たったそれだけの事が幸せだと感じる。

“あの子を愛してらっしゃるのね”

 水城に言われた言葉が頭に浮び、ハッとした。――まさか、本当に俺は彼女を愛しているのか。
目の前のマヤをじっと見つめ、そんな事を思う。
自分でも信じられない事だった。11歳年下の少女に惹かれるている事も、
誰かを愛せる心を自分が持っていた事にも。
「速水さん、聞いてます?」
 マヤが少し不機嫌な顔をする。
つい、考え事に夢中になると目の前の事を忘れてしまう。
昼間と同じ失敗はしたくないと、速水は苦く笑った。
「あぁ、聞いてるよ。映画の話だったな」
「はい。月曜日にまたNGを出したシーンの撮影があって、自信がないんです」
 マヤが牛フィレ肉が乗ったメインの皿に視線を落とす。
「また同じように私、演技出来なくなるんじゃないかと、そればかり心配で」
 マヤがため息をつく。
「それはキスシーンが出来ないという事か?」
「えっ、まぁ、それもありますけど。私、男の人とキスってした事ないから、どういう風にしたらいいかわからなくて」
「だったら、俺が練習相手になろうか」
「なっ、何言ってるんですか!」
 マヤが大きな瞳を見開いて抗議する。
「速水さんとのキスなんか絶対にイヤ!死んだ方がマシ!」
 力いっぱい否定され、落ち込む。
そこまで嫌がらなくもいいではないかと思う。
「もうっ、本当に、何て事言うの」
 マヤがごにょごにょと文句を言い続ける。
「わかった。わかった。今のは冗談だ。俺だって子供相手にそんな気にはならないから、安心しろ」
 速水は不機嫌にワインを口にする。
それから言葉を交わす事はなく食事は終わった。
 食後は二人でテラスに出て満天の星空を見る予定だったが、マヤは何も言わず二階の客室に閉じこもってしまった。
また変なボタンを押してしまったらしい。どうしたものかと、頭を抱えるしかなかった。






 客室にはベッドとソファが置いてあった。
マヤはベッドに倒れ込む。何て事を言ってしまったのか。
恥ずかしさのあまり、速水とのキスなんか絶対イヤだと言ってしまった。
その後の傷ついた速水の表情が居たたまれない気持ちにさせた。
「私、どうしちゃったの」
自分の気持ちに振り回されている。速水と一緒にいて楽しいと思うし、恥ずかしいとも思う。
「……キスだなんて……無理よ」
 月曜日の事を考えると胃が痛くなる。
経験を出来れば積んでおきたいと思っていた。好きな相手の唇に触れた時、
どんな気持ちになるのか。どんな風に唇を重ねればいいのか。
それを知りたい。出来ることなら、速水と……。
「何を考えているのよ!速水さんだなんて冗談じゃない!」
 マヤは枕を叩く。苛立ちが募る。
「あんなヤツ大嫌いよ」
 自分に言い聞かせるように何度も口にする。
「ちょっと一緒にいて楽しいと思うだけ。別に何とも思ってないんだから」
 何とも思っていない。そう思い込もうとしている。
「あいつはつきかげを潰した嫌な奴よ。人の事商品としてしか見てないんだから。
そうよ。商品だから優しくしてくれるのよ。騙されちゃダメよ、マヤ」
 急に泣きたくなった。速水にとって商品でしかない自分の存在が惨めだ。
心が苦しい。もっとちゃんと見てもらいたい。商品じゃなくて女性として……。
「何を考えてるの」
 自分の想いに潰される。速水への想いを否定すればする程心が痛む。
 速水に昼間助けられてから変だ。
逞しい腕に抱かれ、唇と唇が触れて……。
あれはキスとは言えないけど、マヤの中ではキスだ。しかも初めての。
 唇に触れると妙な気持ちになる。速水に会いたい。
「何でよ。何でこんな気持ちになるのよ」
 マヤは枕を叩く。目に涙を浮かべて。




 テラスに出ると速水は椅子に横になるようして座り、空を見上げた。
天気は快晴。今夜はよく星が見える。天の川もくっきりと見えた。
ベガとアルタイとデネブを見つける。
「夏の大三角だな」
 マヤに見せたいと思うけど、隣にはいない。
部屋に閉じこもってしまったマヤに声を掛ける勇気がない。
 可笑しな事だ。11も年下のマヤに心を煩わされている。
マヤに拒絶されると、どうしたらいいのかわからない。
人にどう思われようと今まで気にした事がなかった。
「なぜ、俺はあの子が気になる」
人の心を気にするなんて、全く速水真澄らしくない。
ため息が出る。
「ただの恋人ごっこだったはずだ」
 マヤに年上の男性との付き合いを教えるつもりだった。
しかし、ペースは崩れ振り回されている。これでは本当の恋人じゃないかと、速水は苦笑を浮べた。
 最後に恋人と呼べる女性を持ったのは大学生の頃だ。それも半年交際し、別れた。
それからは誰もいない。仕事だけの人生だ。それが、マヤと出会い心惹かれた。
 気づけば紫の薔薇を贈り続けている。自分でも酔狂な事をしていると思う。
「……速水さん」
 小さな声が響いた。振り向くとマヤがいた。
「隣り、いいですか?」
 速水の隣りの椅子をマヤが不安気に見る。
「どうぞ」
 速水は小さく笑う。今この場にマヤが来てくれた事が嬉しい。
「……さっきはごめなんなさい」
 マヤが俯く。
「何の事だ?」
「……速水さんとのキスなんかイヤって、言った事です」
「あぁ。あれか。別に俺は気にしてないよ」
「そうですか」
 マヤは俯いたままでいた。
「ちびちゃん、星が綺麗だぞ。俯いていないで上を見てごらん」
 マヤが無言で頭を振る。
「どうしたんだ?」
 マヤの様子に心配になる。随分と塞ぎこんでいるように見えた。
「……わからないんです」
 小さな声でマヤが呟く。
「何を?」
「自分の気持ち」
 マヤがゆっくりと顔を上げる。
「速水さんと一緒にいたいと思ったり、二度と顔なんて見たくないと思ったり……。
大嫌いな人なのに、そうじゃないと思う。昼間助けてもらった時、凄くドキドキして、
それから速水さんの顔が見られなくなって……思っている事と反対の事を口にしてしまう。
ねぇ、速水さん、これって一体何ですか?私、どうしちゃったの?凄く胸が痛くて、苦しくて……」
 助けを求めるようにマヤは速水を見つめる。
その瞳に浮ぶ涙に速水はドキっとした。思わず手が伸びる。マヤが愛しい。
 速水はマヤを強く抱き締めた。
「俺も同じだ。君の事を思うと胸が痛くて苦しい」
 マヤに感じている気持ちは誤魔化せない程大きくなっていた。
確かにマヤを愛している。それはもう偽れない気持ちだ。
「マヤ、好きだ」
そう口にし、キスをした。


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