彼と彼女の24時間ープロローグー



 速水真澄は神奈川県川崎市に来ていた。
そこには大都芸能が出資している映画の撮影所がある。
最近は撮影所も不景気で倒産しかけたのを大都が権利ごと買い取ったのだ。
 撮影所のゲートを黒塗りのベンツが入って行く。
速水は窓の外から撮影所の風景を眺めた。時代劇の格好をした役者を見たかと思えば、
トレンチコートを着た刑事風の集団が歩き回り、その横を戦隊物のヒーローが駆けてゆく。
思わずその光景に速水は口の端をあげる。
「水城君、今日の視察に特撮ヒーローもあるか?」
助手席に座る水城に後部座席から速水が話しかける。
「特撮ヒーローですか……そうですね。お時間があれば」
水城が意外そうに眉を上げる。
「まずはこの第5スタジオからの視察になります。うちのベテラン女優主演の
二時間物のサスペンスを撮っています」
車から降りると、速水は水城に連れられスタジオの中に入る。
洋館の中だと思われるセットが組まれ、スタッフたちが忙しそうに走り回っていた。
俳優と監督が丁度打ち合わせをしている。その中に速水はギョッとするものを見つけた。
それはバニーガール姿のマヤだった。スタジオの隅の方で、スタッフと何か打ち合わせをしている。
思わず足が彼女の方に向く。
ベテラン女優との挨拶もそこそこに速水はマヤの方へと歩き出す。
「こんな所で会うとは奇遇だね。チビちゃん」
笑いを堪えながら速水が声を掛けると、マヤはハッとしたように顔を彼の方に向けた。
「これは大都芸能の速水さん、こんにちは」
ぎこちない笑顔をマヤが浮かべると、もう速水はプッといつものように噴出した。
そして、まじまじとマヤの姿を見る。
彼女はウサギの耳をかたどったヘアバンド、黒い蝶ネクタイにウサギの尻尾がついた黒いレオタード姿で、
両手にはカフスを付けていた。
「そんなにじろじろ見ないで下さい。どうせ似合ってないのはわかっています」
マヤは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「確かに似合ってない。こんなに色気のないバニーガール初めて見た」
率直な感想を速水が口にすると、マヤはもうっと眉を上げる。
「どうせ色気ないですよ」
べーっとマヤは速水に悪態をつく。
「後二年で芸術大賞に匹敵する賞をとらないと紅天女になれないのに、君はこんな所で何をしている?」
速水の顔から笑みが消える。
「何ってエキストラのアルバイトです。急遽アルバイトの代理を麗に頼まれたんです。
それに演技の勉強になるかと思って引き受けたんです」
「なるほど。まだ紅天女はあきらめてないのか」
「当たり前です。必ず亜弓さんに追いついてみせます。確かに今はエキストラしか出来ないけど、
でも、必ず道を見つけてみせますから」
強い眼差しをマヤが向ける。
速水はフッと柔らかい笑みを浮かべた。
「そうか。まぁ、せいぜい頑張りたまえ。ところでエキストラってその格好で何をやるんだ?」
「マジシャンのアシスタントです。一応セリフも一言ですけど、あるんですから」
「マジシャン。なるほど。それでバニーガールか。しかし、不器用なチビちゃんがマジシャンのアシスタントなんて務まるのかね」
小ばかにするように速水が笑う。
「出来ますよ。さっき教えてもらったんですから。そうだ。速水さんに私の手品見せてあげましょうか」
マヤが得意気な顔をする。
「ちびちゃんが手品?」
ぷっと速水が再び吹き出す。
「あっ、また人の事バカにして。いいですか。この手錠、種も仕掛けもありません」
マヤはテーブルの上に置かれていた手錠を手にすると、自分の左手首にはめる。
その手錠は輪と輪の間の鎖の長さが1メートルぐらいあった。
「速水さん、右手貸して下さい」
マヤに言われ速水は右手を差し出す。
「では、速水さんの右手にも手錠をかけます」
カシャンという金属音がする。
「まさかこのままって事はないだろうな。ちびちゃん」
心配そうに速水がマヤを見る。
「ここに手錠の鍵があります。速水さん持っていて下さい」
マヤは右手で鍵を見えるように速水の前に差し出す。
速水はそれを左手で受け取る。
「今鍵は速水さんが持っていますから、私が手錠を取る事は出来ないはずですよね」
マヤに言われ、速水は頷く。
「なるほど、鍵を使わずに手錠を開錠するという事か」
「そうです。では、呪文をかけますよ。チチンプイプイのプイ」
マヤが右手人差し指を手錠に向かってまわし、手錠が掛かる左手を大きく揺らす。
速水はその様子をしげしげと見つめた。
「ほら、出来た」
得意げにマヤが左手を上げる。
「何が出来たんだ?」
速水が鋭くとマヤを見る。
「えっ」
マヤは左手を見る。そこにはまだ手錠がかかったままだ。
「あれ?おかしいな。もう一回。チチンプイプイ」
マヤはもう一度左手を大きく揺らすが手錠が揺れるだけで、取れる気配はない。
何度も何度も意地になるようにマヤは左手を振り続ける。その度に鎖の揺れる金属音が
虚しく響いた。
「そろそろ撮影入ります」
二人の後ろで助監督の声が響く。
「あっ、行かなきゃ」
「どうやらちびちゃんの手品は失敗のようだな」
可笑しそうに速水が笑う。
「おかしいな。教えてもらった時は簡単に出来たんだけど」
マヤは諦めたように左手を下ろす。
「失敗を認めて、さっさと開錠した方がいいな」
速水は手にしていた手錠の鍵をマヤに渡す。
マヤはそれを渋々受け取った。
「あれ?この手錠、鍵穴がない」
鍵を手錠に入れようとした所でマヤは目を見開いた。
「何?」
マヤの言葉に速水は自分の繋がれている方の手錠を見る。
確かに鍵穴はない。
「あっ、コレなんだろう」
鍵穴の代わりにマヤは何かのダイヤルを見つける。
「待て、ちびちゃん、それに触らない方が」
速水がそう言ったのと同時にマヤはダイヤルを回せない所まで回していた。
「えっ。回しちゃった」
マヤは苦笑を浮かべる。
速水は大きくため息をついた。
「北島さん、どうしたの?」
二人の後ろにタキシード姿の男が現れる。
「あっ、天功さん。実は手錠が外れなくて」
天功とは今回のマジック監修をしているマジシャンだ。さっきマヤに手錠のマジックを教えた人物である。
「ちょっと見せて」
天功がマヤの左手に掛かる手錠を見つめる。
「あっ、これ使ったのか!」
天功が眉間に皺を寄せる。
「さっき使った手錠じゃないんですか?」
「これは違うやつだよ。しかも厄介な手錠だ」
天功がため息をつく。
「厄介ってどういう所が?」
速水は天功を鋭く見る。
「これは時限式の鍵で、ダイヤルでセットした時間にならないと鍵が開かないんだ」
「あっ、さっき回せない所まで回しちゃった」
マヤが力なく口にする。
「最大で何時間だ?」
速水が天功を見る。
「24時間」
天功の言葉にマヤと速水は顔を見合わせる。
「えーーーーー!」
一瞬の間を置いて同時に二人は叫んでいた。




つづく


 
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【後書き】
どうも。Catです。
今回は手錠につながれてしまった速水さんとマヤちゃんのハラハラドキドキを書こうと思いました。
さてこの後の二人はどうなるのでしょう(笑)
気長にお付き合い下さいませ。

2012.10.13
Cat


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