彼と彼女の24時間-エピローグ-




 ナイフで突き刺すような瞳に彼は口を堅く閉じたままだった。
自分が紫の薔薇の人である事を認めてしまったら、きっと彼女は落胆し、
彼からの援助をもう受けてはくれないだろう。
この先も影であり続ける為にはここで真実を言ってはならない。
彼女との唯一の絆を手放してはならない。だから、彼は嘘を重ねるしかないのだ。
彼は奪い取ったアルバムをゆっくりと顔の横に掲げて言った。
「確かに、このアルバムは紫の薔薇の人から預かったものだ」
努めて感情を押し殺すような声で彼が話すと、彼女の瞳が広がり、責めるように彼を見続ける。
「預かったってどうして!?」
彼女は語気を強めた。
彼は薄く息をつき、テラスの方に視線をやった。
相模湾の濃紺の海が太陽に照らされキラキラと輝いて見えた。
彼はその光景に目を細める。
「ねぇ、どういう事?」
沈黙したままの彼に彼女が詰め寄る。
彼女の方を向くと、目の奥まで突き刺すような視線があった。
彼女にこれ以上嘘をつく事は酷な事のようにも思えたが、自分が紫の薔薇の人だと認めたら、
更に彼女を苦しめる事になる。だったら、嘘を突き通した方がいいと彼は腹を決める。
「つまり、君を大都芸能でもう一度使って欲しいと社長である俺に頼んで来たんだ。
このアルバムは資料だ。君が大都芸能を辞めてからどんな舞台に立っていたかという事がわかるように添えてくれたんだ」
彼はいつもの仏頂面を浮かべ、彼女に質問する余地も与えない早さでまくしたてる。
突然、彼女が支えを無くした人形が倒れ込むようにバサリとその場に座り込む。
「どうした?」
手にしていたアルバムをガラステーブルの上に置くと、彼女の側に腰を落とす。
彼女の様子を見ると幽霊のように青白い顔を浮かべているのがわかった。
「・・・何か急に力が抜けちゃって、だって、もしかしたら、速水さんが紫の薔薇の人なのかなって。
やっぱり、そんなこと、あるわけないですよね」
この空間から消えてしまうんじゃないかと思う程、弱々しい笑みを彼女が浮かべる。
彼の胸は罪悪感という名のハサミで切り刻まれるようだ。彼は堪らず彼女から逃げるように立ち上がる。
「あぁ。あるわけないだろう。この俺がなんでちびちゃんにそんな事をするんだ」
座り込んだままの彼女を見下ろし、いつもよりも大げさな笑いを作る。
彼女は陶器のように脆く白い顔を浮かべたままだ。
「・・・私、バカみたい」
俯いた彼女が今にも真っ二つに折れそうな程小さく見え、重ねた自らの嘘に胸が軋んだ。
「あっ、でも、という事は・・・」
彼女が何かに気づき勢いよく立ち上がる。
「速水さんは紫の薔薇の人を知っているんですか?」
彼女の顔が僅かな希望に輝く。それはまるで無人島に漂流した者が航海する船を見つけたような顔だ。
彼はそんな彼女を横目で見ながら、腕を組む。
「残念ながら直接は知らない。紫の薔薇の人の使いだという男に会っただけだ」
「その男の人って、聖さんの事?」
「あぁ、そうだ。確か聖と言っていた。前髪の長い、俺と同じ年ぐらいの男だ」
彼の言葉から彼女は確信を得たように笑みを浮かべる。
「そうそう。前髪の長い優しそうな人です。そうか、聖さん、速水さんの所に来たんだ」
彼女はまた俯く。
「速水さんの所に売り込みにまで来てくれたんだ」
ぐすんと洟をすすりあげる音がした。
「紫の薔薇の人、本当に何者なんでしょうね。こんなに私の事を心配してくれて。
出来ることなら、直接会ってお礼が言いたい」
床を見つめたままの彼女の声には涙が混じっている気がした。
胃が雑巾のように硬く絞られるような痛みを感じる。
純粋な彼女の気持ちを目の前で裏切り続ける自分が嫌だった。
彼は組んだ腕を解くとテラスの方にニ、三歩進み、外との間にあるガラス戸に右手を預け寄りかかる。
さっきよりも深いため息が出た。
「・・・きっと、悪いやつなのかもしれない」
彼女に背を向けたまま口にする。
「悪いやつだから、正々堂々と名乗れないんだ」
彼女への後ろめたさに思わず、本音が出る。
「やめて下さい!紫の薔薇の人はそんな人じゃない!絶対いい人です。
誰が何と言おうと、例え刑務所に入っていようと、私にとってはいい人です!」
彼女の尖った声が背中越しに響く。彼女の方を見ると正面から彼を突き刺すような眼差しがあった。
「私の紫の薔薇の人を侮辱しないで下さい!悪い人だなんて言わないで下さい!」
‘私の紫の薔薇の人’という表現に彼は思わず目を剥く。
そんな風に彼女に思ってもらっていたなんて意外だった。
彼は寄りかかった姿勢から真っ直ぐに立ち、体ごと彼女の方を向いた。
「どうしていい人だと言い切れる?会った事がないのに、どうしてそう思うんだ?」
紫の薔薇の人への嫉妬心がつい、責めるような口調になってしまう。
全く自分で自分に嫉妬しているのだから、世話がない。
「どうしてって、だって私が今お芝居ができるのは紫の薔薇の人がいたからです。
最初の舞台の時に薔薇をくれて、それから、いつも大変な時に助けてくれて・・・高校にまで行かせてくれたんです。
それに紫の薔薇の人は私の知らない所で、速水さんに私を売り込む程なんですよ?
例え何か意図があったとしても、私はその行為をありがたいといつも思っているんです。
だから、私は紅天女を目指すんです。亜弓さんのような凄い才能のある人がライバルでも、紫の薔薇の人の為に頑張れるんです」
紫の薔薇の人の為に頑張る≠サの一言が急に彼の胸を熱くし、喉の奥に言葉にならない想いのたけがこみ上げてくる。
彼はキュッと唇を噛み締め、感情の波にさらわれそうになるのを堪える。
「・・・そうか。そんなに君は・・・紫の薔薇の人の事を・・・」
語尾が微かに震え、彼は彼女から顔を逸らすように背を向けると、テラスの先の相模湾を見つめる。
ガラス戸を開けると潮風が彼の頬を撫で、波の音に重なるカモメの鳴き声が聞こえてきた。
彼は気持ちを静める為に目を閉じ、深く、深く呼吸をする。
「きっと、今の君の言葉を聞いたら、紫の薔薇の人は感激するだろう」
きつく閉じていた目を開けると海が歪んで見えた。
目から熱いものが零れ落ち、彼の頬を濡らす。
「・・・速水さん?」
背中にかかる彼女の声に戸惑いが混じっていた。
「どうしたんですか?泣いているんですか?」
彼女の言葉に彼は背を向けたまま右手で目を覆う。
何かを話さなければ、いつものポーカーフェイスを作らなければと思うが、どういう訳か素の自分から戻れない。
今彼女に顔を見られたら、全てがバレてしまう。
「速水さん?」
彼女が彼に近づくスリッパ越しの足音が聞こえた。
「ねぇ、速水さん」
彼の真後ろで彼女の足音が止まる。
「・・・何でもない。あくびをしただけだ。昨日はほとんど眠れなかったからな。
まぁ、君が隣でいびきをかいていたから仕方がないが、全く迷惑な話だ。君といるとろくな事がない」
右手で涙を拭うと、ガラス戸を静かに閉じた。
フーッと息を吐き出すと、ポーカーフェイスを作り、彼女の方を振り向く。
真っ直ぐな彼女の瞳が注がれる。
「・・・本当に?」
彼女の瞳は何かに揺れて見えた。
「今言った事は本当の事ですか?」
真偽を確かめるように彼女は彼を見つめ続ける。
その視線が嘘で固めた彼の本心を散らす。
頬が強張る。手にはじっとりと汗をかいていた。
「何の事だ?」
眉一つ動かす事なく、彼は彼女を見下ろす。
「だから、紫の薔薇の人が・・・」
最後まで言わないうちに彼女が口を閉じる。
「・・・いいんです。もういいです。まさか、そんな事やっぱりあるはずないから」
彼女は喉の奥からため息を零すと、ソファの前まで歩き、一番端に座る。
彼との間にある手錠の鎖がピンと張り詰め、微かに彼の右手首に力がかかる。
「私バカみたい。やっぱりそんな事あるはずないのに」
彼女はコーヒーカップを手にし、口にすると、しかめた。
「やっぱりちびちゃんには砂糖とミルクが必要じゃないのか?」
鎖に引っ張られるように彼は彼女の隣に座った。
「いえ、いいんです。カフェインの苦味を楽しんでいる所ですから」
彼女は大人びた表情を浮かべ、肩にかかる黒髪を耳の後ろにかけた。
その仕草に彼は色香を感じ、思わずゴクリと唾を飲み込む。
まだまだ少女だと思っていたが、彼女は何だか昨日よりもぐっと大人の女性に近づいた気がした。
「何です?」
伺うように彼女は黒い瞳で彼を捉え、曖昧な笑みを浮かべる。
たったそれだけの事なのに、どこか艶かしさが漂う。
「いや、何でもない」
まさか彼女に見とれていたなんて、口が裂けても言えなかった。
「もう午前9時か。君と繋がれているのも後4時間だな」
テレビボードの中のレコーダーの表示部分に青い字でデジタル時計が表示されていた。
二人は思い出したように繋がれた手錠に視線を落とす。
「もう、あれから20時間経つんですね。何か早いな」
「そうだな。過ぎてしまえば早いな」
しみじみとした空気が二人の間に流れる。
「後、4時間で、お別れですね」
彼女の言葉に不意に寂しさがこみ上げてくる。もっと一緒にいたい。
もっと彼女の気配を感じていたいと思うが、そんな自分を拭い去るように彼は笑う。
「やっと君と離れられてせいせいする。全くトイレ一つ行くにも気を遣うんだから、堪ったものじゃない。
こんな生活二度としたくないね」
心の中にある事とは反対の事を口にする。それは彼の精一杯の強がりだ。
彼の言葉に彼女が少し怒ったように眉を上げる。
「速水さんはそんなに私の事が邪魔なんですか?そんなに私が嫌いなんですか?少しは寂しいとかないんですか?」
「ある訳ないだろう。豆台風がやっと去ってくれるんだ。これ以上嬉しい事はない。それとも君は寂しいのか?」
ただの冗談のつもりで口にした言葉に彼女が一瞬、瞳の奥を潤ませる。 
「・・・寂しいですよ」
彼女の小さな一言に彼はドキッとした。
「随分としおらしい事を言うんだな」
彼は口の端を上げる。
「そうですね。自分でもびっくりです。あんなに早く離れたいと思っていたのに、今はもっと一緒にいたいなんて・・・」
彼女は困惑したように笑うと、じっと彼の方に視線を向けた。
「昨日から私変なんです。速水さんの事ばかり考えている。自分でもよくわからないんですけど、
速水さんの事を思うと泣きそうになるんです。胸の真ん中が打ちぬかれたみたいに痛むんです。
それなのに、一緒にいたいと思う。冷たい事を言われてもいいから、一緒にいたいって思うんです」
彼女の視線が彼を捉える。
こんな事を言われて平気でいる男なんているのだろうかと、彼は思う。
思わず手が伸びそうになるが、彼はバスルームでの事を思い出し、彼女に触れようとした1p手前の所で手を止める。
気まずい沈黙が二人を包む。その時、彼らを救うように携帯電話が鳴った。
それは本棚の隅に置かれていた。彼が立ち上がると再び二人の間の鎖が伸びる。
「もしもし」
彼が左手で携帯電話を耳に付けると、低い声で出る。
「あっ、社長。桐島です」
落ち着いた女性の声がした。
「あぁ。桐島君か」
昨日の試写会で会った赤いドレス姿の桐島りんごの姿が浮かぶ。
「実は撮影が押してまして、少しランチに遅れそうなんです」
桐島りんごの言葉に彼は一瞬頭の中が白くなる。
「・・・ランチ?」
反射的に単語を口にする。
「えぇ。今日青山のフレンチレストランで十二時に待ち合わせをしたと思うんですけど・・・」
少しトーンを落とした不安気な桐島りんごの声がする。
「あぁ。そうだ。そうだった。そうか、今日だったのか・・・」
スケジュールについてはほとんど秘書の水城に頼りきっていたので、完全に忘れていたのだ。
今から伊豆を出ると、何時に東京に戻れるかと、彼は頭の中で計算する。
「あの、もしかして、ランチの約束はキャンセルですか?」
不安気な声から、彼女が楽しみにしていてくれた事が伝わってくる。
「あっ、いや。そんな事はない。俺の方も仕事が立て込んでいて、二時間程遅らせてもらいたい」
「じゃあ、午後二時ですね。丁度私もその時間にして欲しいって言おうと思っていたんです」
明るい溌剌とした声が響く。
「では、速水社長、忘れないで下さいね」
「あぁ。大丈夫。必ず行くから」
そう言うと速水の方から電話を切った。
速水は電話を下ろすと、ふーっとため息をつく。
「お忙しいんですね」
ソファに座ったままのマヤが彼に声を掛ける。
少し棘が刺さったような言い方でだ。
「あぁ。すっかり忘れていた。今日は仕事をサボってしまおうと思っていたが、失敗に終わったようだ」
彼は苦笑を浮かべる。
「今の電話、昨日会った桐島りんごさんですか?」
「あぁ。そうだが」
「社長さんて、女優さんとランチするのも仕事なんですね」
彼女の言葉を聞いて、思わずプッと笑ってしまう。
「何だ、君、妬いてるのか?」
彼の言葉に彼女が目を丸くする。
「や、妬いてなんかいません!」
耳まで赤くした彼女が目が覚めそうな程の大声で言う。
「何で私が速水さんにヤキモチをやくんですか。全く、勝手な事言わないで下さい」
「それは失礼した。てっきり君が桐島りんごのファンなのかと思ったんだよ。昨日熱心に彼女の映画を観ていたからな」
「えっ」
彼女がきょとんとした顔をすると、すぐに顔中を赤くする。
その変化に彼はハッとしたよう目を見開く。
「まさか、俺か?」
彼の一言に彼女は更に恥ずかしそうに赤くなり、顔を背けた。
わかりやすい彼女の態度に彼はクスクスといつもの笑いを浮かべる。
「笑いたければ、笑って下さい」
彼に背を向けたまま彼女が俯く。
「こんな事で嫉妬する私、変ですよね。速水さんが誰とランチしようと私には関係のない事なのに」
丸まった小さな背中が頼りなく見えた。
「さっきも言ったけど、昨日から私、可笑しいんです。速水さんの事ばかり考えてしまう。
速水さんと離れたくないって思うんです。 こんな気持ち初めてで、どうしたらいいのかわからなくて」
そこまで口にすると、彼女はソファから立ち上がり、テラスの方に歩く。
二人の距離を測るように手錠の鎖が限界まで伸びきる。
「・・・速水さんが紫の薔薇の人だったら」
テラスの方を向いたまま彼女が口にする。
「もしも、速水さんが紫の薔薇の人だったら・・・凄く、嬉しかった」
小さく響く彼女の声に彼は目を見張る。
「私、何言ってるんだろう。そんな事ある訳ないのに」
彼女が振り向く。その瞳には涙が溢れていた。
彼の中で抑えていた何かが音を立てて崩れる。彼は彼女に駆け寄る。
そして、ギュッと彼女の体を抱きしめた。
「・・・速水さん」
腕の中の彼女が驚いたように彼を見上げる。
「もう俺の負けだ。君にそこまで言われたら、俺はどうしようもない」
華奢な彼女の体を抱きしめながら、彼は敗北を悟った。
「そうだ。俺が、俺が紫の薔薇の人だ」
彼女の瞳が更に驚いたように見開く。
「君が好きだ。ずっと、ずっと好きだ。本当は俺だって離れたくない。許されるならずっとこうして君と・・・」
そこまで口にすると、彼は半開きになっていた彼女の唇を奪う。
柔らかな彼女の唇に彼は身を焦がす程の恋がどういうものか知る。
もう立場なんて関係ない。11歳年下である事も、彼女に憎まれてきた事も全てこの瞬間に消えた。
「俺が嫌か?」
唇を離すと不安気な彼女の瞳とぶつかる。
彼女は力いっぱい首を左右に振る。
彼女の意志を確認すると再び彼は彼女の唇を奪った。









「おはようございます」
翌日、彼がいつものように出社すると秘書の水城が彼の好物であるブルーマウンテンコーヒーを手に社長室に入って来る。
芳しい香が一瞬にして部屋中に広がる。
「あぁ、おはよう」
執務机の上に白いコーヒーカップが置かれると、彼はすぐに手を伸ばした。
口に含むと心地よい苦味が脳を刺激する。
いつもの期待した通りの味だ。今日も一日頑張れる。
彼はコーヒーカップから唇を離すと、僅かに表情を緩ませた。
「今日の予定は?」
彼は執務机の前に座ったまま、目の前に立つ水城を見る。
水城は手にしていたバイブルサイズの手帳を開いた。
「午前十時から大都運輸での今後の経営方針などの御前会議があり、その後はメインバンクの三友銀行頭取とのランチになっています。
午後二時からはテレビ局で桐島りんご主演の連続ドラマの制作記者会見があるので、出席して欲しいとの事ですが・・・」
そこまで口にすると、水城は手帳から視線を外し、彼を見る。
「桐島りんごがすっぽかされたと怒っているそうです」
水城の言葉に彼は「あっ」と小さく声を上げる。
「いかがされました?」
「あっ、いや、その・・・ランチの約束を昨日してた」
間抜けな事に水城に言われるまで彼はすっかりと忘れていた。
水城の整えられた左眉が微かに上がる。
「水城君、何とか埋め合わせをできるように調整してくれないか?」
「そうですね」
水城は時間の隙間を探すように手帳を見る。
「今夜午後8時でしたら、何とか・・・」
「今夜はダメだ!」
水城の言葉を覆うように彼の声が響く。
水城はサングラスの奥の瞳をパチパチとさせ、彼を見る。
「えっ、いや、・・・その、私用が入っているんだ」
歯切れの悪そうに彼が答えると、水城は微かに笑みを浮かべ、思い出したように彼の前にある物を差し出した。
「今一番人気のある舞台のチケットです。そういえばこちらの上演時間と重なりますね。
先ほど広報部の早川が持って来ました」
「あぁ。すまない」
彼はチケットを二枚受け取ると、そそくさと上着の内ポケットに仕舞う。
彼の様子からおそらくデートであろう事が有能な秘書でなくてもすぐにわかる。
「そういえば、ご無事で何よりでした」
「えっ」
「手錠です。午後一時には外れましたか?」
水城の言葉にチラリとマヤの顔が浮かぶ。
「あぁ、外れたよ」
彼は水城から視線を外し、何事もなかったように机の上の書類を見つめる。
「それは良かったです」
当然手錠に繋がれていたもう一人の片割れについて水城に聞かれると思い身構えるが、
彼女は何も言わずに社長室を後にした。
パタリと閉じたマホガニーの材質で出来た両開きのドアをじっと見つめ、
不意に表情を緩ませる。
ふと、今朝まで一緒だったマヤが今頃何をしているのか気になる。
繋がれていた右手首には薄く手錠の跡があった。
きっと彼女の左手首にも同じようなものが残っていると思うと、彼の胸に甘い疼きが広がる。
椅子を回転させ、窓の方を見ると雲ひとつない空があった。今頃彼女もどこかでこの空を見ているかもしれない。
ただそう思うだけで彼の胸を言いようの無い幸福感が包み込む。
「さぁ、今日も頑張るか」
彼は呟き、椅子を机の方に向けると仕事に取り掛かった。







終わり




 





 
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【後書き】
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
もう少し小道具の手錠を使って何かをさせたかったのですが、できなかった(笑)
二人のもっと農耕じゃなくて、濃厚なシーンも書きたいなと思いつつ、やっぱり書けなかったという反省点は
ありますが、まぁ、こんな所でどうぞお許し下さいませ。

次回は次回こそは
・・・そういうものも・・・書けたらいいな・・・(希望)

2012.11.28 up
Cat



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