引 越 し と 香 水
「引越し屋はもう来るんだ。何やっているんだおまえ!」 「おまえって何よ!あんたこそ荷造り出来てないじゃない!」 「えーん、えーん」 「あぁ、りょうちゃん、ごめん、泣かないで」 「亮太うるさい!」 「えーん」 「ちょっと、泣かせないでよ!引越し屋が来るでしょ!」 「おまえはいつも亮太に甘いんだ。男は厳しくしなきゃだめだ」 「ほとんど家にいないくせに、よくそんな事言えるわね」 「仕方ないだろ。仕事があるんだから」 「仕事、仕事って、そのせいで私たち引っ越さなきゃいけないじゃない」 「転勤なんだから仕方ないだろ」 「だったら、あんた一人で単身赴任でいいじゃない!私は三十年間千葉で育って来たの。 ここだったら実家も近いし、何かあった時頼れるけど、岡山に親戚どころか友達も、知り合いもいないんだから、私は行きたくないのよ!」 「そのことはもう話し合っただろう。会社は家族で転勤っていう方針なんだ。家賃だって会社が持ってくれるし、 今度の所はおまえが住みたがっていた一戸建てだからいいじゃないか」 「一戸建てって、築百年の田舎の家じゃない。近くにスーパーもない、コンビニもないような所イヤなの。 それに会社って、私と亮太の都合は考えないの?」 「考えてるさ。俺が大事なのは可奈と亮太だっていつも言ってるだろ?」 「あんた口ばっかりじゃない。亮太の誕生日だって、私の誕生日だって帰って来ないじゃない。 お盆もお正月も家にいないし、亮太と私はどれだけ寂しい思いしてると思ってるの?」 「仕方ないだろう。仕事なんだから!」 「もういい。あんたとは今日限りで離婚よ!」 「ママ、これ」 「ごめん。亮太、ママ涙止まらなくて」 「亮太何持っているんだ?あっ、これは」 「……香水?でも、どうして?」 「育児で忙しくて女性らしいお洒落が出来ないって言ってたから、誕生日に渡そうと思ったんだ。でも、どこかに仕舞い失くしちゃって」 「幸ちゃん」 「確かに可奈と亮太の事考えていなかったな。本当は俺が二人と離れたくなかったから、 一緒に来て欲しかったんだ。でも、どうしても嫌だというなら俺一人で行くよ。だから、離婚なんて言うなよ」 「私こそごめん。一緒に行くよ。私も幸ちゃんと離れたくない」 ピンポーン! 「あっ、引越し屋だ。まだ荷造りできてない!」 終わり |
【後書き】
読んで頂きありがとうございます。
「香水小説」という所に投稿した作品です。
1000文字以内という中で書かなければならず、文字数で苦戦しました。
会話だけでテンポよく話を読んで頂こうという意図で書きましたが、どうだったでしょうか?
2012.12.19 Cat