お と ぎ 話
「何度来てもKはいないよ」 ここは銀座にある調香師Kの香水店だ。 「どこに行けば会えますか?」 「あんたこそ、どこの誰か話したらどうだ?身元がわからないヤツに教える訳にはいかない」 女は黙ったまま俯く。男はため息をついた。 「身元が話せないなら、Kに会いたい理由を話してくれないか?」 男の言葉に女が顔を上げる。 「理由はこれです」 女は鞄から年代物の青い小瓶を取り出す。 「この小瓶にはお姫様の為にある調香師が作った香水が入っていました。 お姫様は隣国の王子と結婚しなければなりませんでしたが、その調香師と愛し合っていたのです。 だから姫は国を捨て、調香師と駆け落ちをしました。 しかし、そのせいで隣国と戦争が起きたのです。 姫は愛する調香師と離れたくなかった。でも、一国の姫として戻らなければならない。 そんな時、調香師はいなくなり、『永遠の愛とともに』という言葉が添えられた香水が置かれていました。 姫はその想いを受け取り、国に戻りました。それが、この小瓶の中に入っていた香水です」 「なるほど、素敵なおとぎ話だ。それでKとどんな関係になるんだ?」 男の言葉に女は小瓶を差し出す。 「この香りを嗅いでみて下さい」 男は蓋を取り小瓶を鼻にあてると、目を見開いた。 「そうです。Kが作ったフェアリーテールと同じ香りがするんです」 女は店に置かれている香水の瓶を手にする。 「この話が大好きでよく祖母にしてもらったんです。 でも、ただのおとぎ話だって、みんなは言うんです」 女が目を閉じる。 「だが、あんたはそう思わない」 男の言葉に女はパッと目を開く。 「はい。祖母が死ぬ間際に話の調香師が日本にいる事を教えてくれたんです」 「それでお姫様は城を抜け出した訳だ」 男はカウンターの上の新聞を女の前に突き出す。そこには『某国の姫が失踪!』という大きな見出しがある。 「もうタイムアウトですね」 女は諦めたように笑い、男に背を向け歩き出す。 「待て!」 男の声に女が振り返る。 「これを」 男がフェアリーテールを差し出す。 「俺も祖父から同じ話を聞いた。だから真相を確かめたくてこの香水を作ったんだ」 男の言葉に女は目を見開く。 「どうやら実話だったようだな。お姫様」 「えぇ。K」 女は満面の笑みを浮かべた。 終わり |
【後書き】
「引越しと香水」と同様に香水小説に投稿した作品です。
香水というイメージからおとぎ話のような感じにしたいというのがすぐに浮かびました。
でも、考える事はみんな一緒のようでそのような作品が多数あったそうです。
特色を出し切れず落選しました。
この作品も1000文字以内でという条件に苦戦しました。
調香師Kとお姫様のラブストーリーに繋がるような展開で終わらせたかったのですが、
そこまで辿り付けませんでした。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
2012.12.19 Cat