優しい月に流れ星―Act.4 事件後―
AUTHOR たまニャン
真澄が帰国した時、空港はちょっとしたパニックになっていた。 大都の社員、多くの報道陣、更には野次馬まで押し掛けていた。 誘拐犯から逃げ出しただけでなく、賊を壊滅させたヒーローの凱旋帰国である。 マスコミが飛びつかない訳が無い。 何処ぞの映画スターを出迎える様な騒ぎである。 「お帰りなさいませ、真澄様」 「ああ、水城くん、心配かけたね」 「いいえ、私は。ですが、マヤちゃんが・・・」 「予定より、少し早いのですが産気づきまして、病院に・・・」 「何!」 水城と聖の協力で、なんとか空港を出て病院に向かう。 真澄が病院に着いた時、朝倉と英介がいた。 「マヤの様子はどうですか?」 「分娩室に入った。まだ時間がかかるそうだ」 「そうですか。あとは私が残りますので・・・」 「何だ、帰れと言うのか?」 「いえ、そう言うことでは・・・ そう言えば、今回は大変ご迷惑をお掛けしました。水城に聞きました。何かと、ご尽力頂いたそうで」 「・・・ワシじゃなく、マヤさんに礼を言うんだな。マヤさんがお前と大都を護ったんだ。いつの間やら、立派な速水の嫁だ」 「ええ、何しろ天女様ですからね」 「いや。 そんな神懸かり的なもんじゃない。 あれは・・・母親の強みかもしれんな。 文も、お前の母親も強い女だった。 仕事ばかりの儂に泣き言ひとつ言わず、お前の事も儂に任せてくれた。 それを思えば今大都が有るのは文のお蔭だ」 英介の言葉を真澄は不思議な気持ちで聞いていた。こんな風に自分の母親について、英介と話しをした事など、今迄無かった。 母の事など全く省みなかったこの男が。自分の事も見捨てようとした男が。 この男も変わったという事か。俺がマヤに出逢って、閉じ込めた情熱を思い出したように、この男も人間らしい感情を持つようになったのか? マヤ、幸せだと言ってくれただろう? 違う。俺なんだ、幸せなのは。 俺が欲しいものを、みんな君が与えてくれる。生きる目的も、愛し愛される喜びも、本当の家族、進むべき未来さえ・・・。 ありがとうマヤ、こんな俺を愛してくれて・・・。 物思いに耽っている間に、英介も朝倉も居なくなっていた。 そこへ、お父様ですか、と白衣の女性が呼びに来た。 ふらふらと、導かれるまま病室に入って行く。 ベッドに上半身だけ起こしたマヤがいた。 息んだからだろうか、顔が腫れて、唇も切れていた。それでもその大きな瞳は喜びに満ちていた。 「真澄さん、良かった無事に帰って来れて。ね、見て」 幾分、誇らしげに産まれたばかりの子供を示す。 「マヤ」 と、言ったきり真澄はマヤの膝に突っ伏して、言葉を継げなくなってしまった。 マヤのはにかんだ笑顔が眩しくて、すでに母親の顔をしているのが頼もしくて・・・ 真澄の柔らかな癖のある髪をマヤの手が梳く。 「何だか、今日は真澄さんの方が子供みたい。困ったお父さんね。 ね、名前考えてくれた?」 「あ、ああ」 漸く我に帰る。 「ユヅキ、優しい月と書いて優月。男の子は流れ星で流星(リュウセイ)だ」 「速水優月、速水流星。ん、素敵ね」 「ユヅキ、リュウセイ。お父さんとお母さんだよ、よろしくね」 マヤは傍にいる双子を覗き込み話しかけた。 えー、つぎのニュースですが先日からお伝えしております、大都芸能社長 速水真澄氏の、拉致監禁事件の続報です。 帰国会見はキャンセルされたんですが、ファックスが届いていますので、原文のままお伝えします。 マスコミ各位様 この度の事件におきまして関係各位に多大なるご心配とご迷惑をお掛けしましたこと、心よりお詫び申し上げます。 人生最後の日と覚悟致しましたが、無事帰還しました事をご報告致します。 また、この度前任の速水英介の後を受け、大都芸能を含めます大都グループの取締役会長に就任致しました。 かかるうえは、社業発展に専心努力して参る所存でございますので、今後とも倍旧のご愛顧を賜りますよう、心からお願い申し上げます。 尚、私事ではございますが兼ねてより妊娠中でありました妻、北島マヤが双子を出産致しました事も、合わせてご報告致します。 母子ともに健康であり、北島は一日も早い舞台復帰を目指しております。これからも親子共々よろしくお願い申し上げます。 速水真澄 北島マヤ 「と、いう事なんですがねー。どうですか?」 「いやー何ともオメデタ続きですねー」 「大都の株は連日ストップ高だそうですよ」 「北島さんも女優復帰って事で、これもまた楽しみですね」 「紅天女の前に、この双子ちゃんとCMの話もあるって・・・」 このニュースはテレビ、ラジオ、新聞、ネットのトップを飾った。 一方 「おい、マヤ。流星が目を覚ましたぞ」 「ヤダ、真澄さんそっちは優月だってば」 「ウン?そうだったか?」 「おーい、マヤさん、流星がいつまで経っても起きないんだが」 「うっ、いかん、マヤ。優月がウンチだ。パンツは無いか?」 「え、えと、パンツじゃなくって、オムツはっと」 「おーい、マヤさん・・・」 「マヤ様、オムツはこちらに。真澄様は早くご出勤の準備をなさって下さい。 御前、赤ん坊というのは寝るのが仕事で御座いまして、無理に起こさない方がよろしいかと」 「うむ、そうか」 朝から大騒ぎである。 これが、速水家の日常になるのかと、溜め息のでる朝倉であった。 Fin |
【Catの一言】
たまニャンさん、ご投稿ありがとうございました。
ハラハラドキドキの展開でしたが、最後はホッとしました。
平和な速水家の様子に頬が緩みました。
優月ちゃんと流星君いい名前です♪
2015.3.4.