―――  雨と恋 4【マ ヤ】  ――― 


――速水さん!

目を開けるとすぐそばに速水さんの顔があった。
心臓が飛び出そうになるぐらいびっくりした。
一体、何がどうなってるの?

見慣れない天井に、大きなベッド。

ここは……そうだ。速水さんと泊まったホテルの部屋。
水城さんからお洒落してらっしゃいと言われて呼び出された場所は大きなホテルのパーティールームだった。
この間、麗と買い物に行った時に買った水色のワンピースに初めて袖を通した。
だけど、パーティーに来てる人たちはみんな華やかなドレスを着てて、綺麗で、惨めな気持ちになった。
とんでもない場所に呼ばれちゃった。
どうしたらいいかわからなくて、隠れるように壁際に立っていたら、「速水さんよ」って誰かの声がした。

「まだ28才なのに一流の俳優が所属している大都芸能の社長をしてるんですって」
「あの大都芸能の!私、好きな俳優さんが沢山いるのよ」
「速水社長と親しくなれば会わせてもらえるかしら?」
「わたくしは速水さんと個人的に親しくなりたいわ。本当に素敵な方ね」

女の人たちの楽しそうな話し声を聞きながら、すごくドキドキしてきた。
速水さんて、女性にモテるんだ。
そうだよね。カッコいいもんね。

私も入り口辺りにいる速水さんを見た。
黒いタキシードは悔しい程よく似合ってる。
まるでレッドカーペットの上を歩くハリウッドスターみたい。
シャンパングラス片手に誰かと話している姿も映画の中のワンシーンみたいに決まってる。
速水さんは立ってるだけで絵になる。
女の人たちが楽しそうに速水さんの事を話すのもわかる。

それに引き換え私はちびちゃんだし、亜弓さんみたいに美人じゃないし、お金もないし、芝居の事以外は何も出来ない……。
なんで私、速水さんなんて好きになっちゃったんだろう。

ため息がこぼれた。
通りかかったボーイさんから、シャンパングラスを受け取って飲んだ。
お酒だって事はわかってたけど、寂しくて惨めで飲まずにはいられない。
でも、一口飲んだらスッキリとした葡萄の風味がして、凄く美味しくて、二杯、三杯と飲み進んでた。

それで気づいたら速水さんが近くまで来てた。

――こんばんは。ちびちゃん

桜小路君よりも、里美さんよりも低い声。
意地悪な事も、厳しい事も、その声で言われると特別な事のように聞こえる。

――こ、こんばんは。

――俺は君にとってゴキブリか何かなのか?

――え?

――俺の顔を見るといつもそんな顔してる。

――そっ、そんなつもりはありません!速水さんが特別だから緊張するんです。

急に速水さんが黙って、じっと私の顔を見る。

私、何か変な事言いましたか?

そう聞きたいのに、すごく胸がドキドキして何も言えない。
それどころか、顔が熱くなって速水さんの顔も見れなくなる。
こんなに胸がドキドキして顔が熱いのはシャンパンのせい?
それとも速水さんのせい?

それから、速水さんとバーに行って、カクテルを飲んでだんだん帰りたくなくなって、気持ち悪くなって、速水さんと部屋に入って……。
速水さんがシャワーを浴びている間に寝ちゃったんだ。

でも、どうして寝室にいるんだろう?
私がいたのはリビングだったのに。

速水さんを見ると小さな寝息を立てて眠ってる。
くすっ、速水さんでもそんな無防備な顔するんだ。
いつもは偉そうにしてるのに、寝てる時は速水さんも可愛い。

もっと速水さんを見たくて、近づいた。
まつ毛長いな。眉毛綺麗な形に整ってる。揃えてるのかな。天然なのかな。
鼻は高いな。きっと眼鏡とかも似合うんだろうな。
唇は閉じてると普段よりも小さく見えるんだ。

そんな風に速水さんの顔を観察してたら、眉毛が苦しそうに少しだけ動いた。

怖い夢でも見てるのかな?

宥めるようにそっと速水さんの頭を撫でた。シャンプーの甘い匂いがした。
苦しそうにしてた速水さんの表情が緩んだ。何だか気持ちよさそう。
もしかしたら速水さんは、頭を撫でてもらうのが好きなのかもしれない。
速水さんが喜んでくれるならって、何度も頭を撫でた。
撫でる度に好きって気持ちで胸がいっぱいになる。
でも、次の瞬間は苦しくなった。
朝が来たら私も速水さんも帰らなきゃいけない。こんな風に一緒にいられるのは今のうち。
離れたら今度いつ忙しい速水さんに会えるかわからない。

大都芸能にいればよかった。
そうすれば、今よりも速水さんに会う事が出来たかもしれない。

はあーっとため息が出た。
その時速水さんが「うーん」と口にした。
慌てて速水さんに近づいたぶん、後ろに戻った。そして目を閉じた。

「寝てしまったのか」

 起き抜けの少しかすれた速水さんの声がした。

「……4時か」

 速水さんがベッドの側の時計を確認する気配がした。

「マヤ」

 ちびちゃんではない呼ばれ方に鼓動が大きく鳴った。
 私の方へと向かって布団の上を動く気配がして、さらに胸がドキドキした。
 そして、速水さんの手が私の髪に触れたのがわかった。
 手のひらでそっと私の頭を撫でている。とっても優しい触れ方だった。

「君はどういうつもりでいるんだ?俺はこれでも結構悩んでるんだぞ」

 吐息交じりの速水さんの声がすぐ近くでした。

「俺の事が好きだなんて、あれは本当に悪戯だったのか?それとも……」

 速水さんがため息をついた。

「俺は何をしてるんだろうな。君の言葉に振り回されて。子供だって言いながら本当はそんな風には思ってない。
 俺は君の事が……」

 頭を撫でていた手が頬に移動するのがわかった。まるで陶器の置物に触れるような触り方で、速水さんは私の頬に触れていた。
 触れられた場所が熱くなって、息が詰まりそうになる。
 どうしたらいいかわからない気持ちと、もっと触れて欲しい気持ちで胸が締め付けられる。
 しばらく頬に速水さんの温もりを感じてた。そして、不意に温もりが遠ざかって不安になる。
 目を閉じたまま耳を澄ませてると、控えめに閉まるドアの音がした。

「は、速水さん!」

 ベッドから起きると、速水さんの姿はどこにもない。
 部屋に速水さんがいない事が急に苦しい事のように思えてきて、泣きそうになる。
 このまま速水さんと離れてしまうのは嫌だった。もっと速水さんといたい。
 速水さんの側にいたい。
 衝動的な気持ちに突き動かされて、泣きながらリビングへのドアを開けた。

「怖い夢でも見たか?」
 
 速水さんの、からかうような、のん気な声がした。
 ソファの近くに立っている速水さんはバスローブからワイシャツとズボンの姿になっていた。
 帰る仕度をしてたんだと思うとさらに胸が張り裂けそうな気持ちになった。 
 速水さんに駆け寄り、腕を掴んだ。
「……ないで」
 涙で声がつっかえる。
「え?」
 速水さんが眉を上げて私を見る。
「い、行かないで……」
 もう一度口にした。今度は聞き取れたみたいで、速水さんの表情が驚いたものに変わった。
「か、帰らないで……」
 小さな子供のように繰り返した。
 速水さんは戸惑った表情で私を見た。
「本当に怖い夢を見たようだな」
 速水さんが小さな笑みを浮かべる。
「わかった。わかった。もう少しいるから、そんな顔で俺を見るな」
「少しなんていやです。ずっと、ずっと、速水さんの側にいたい」
 自分でもワガママな事を言ってると思う。でも、速水さんがいなくなると思った時感じた寂しさをもう感じたくない。
「困った子だな」と速水さんはソファに腰を下ろし「おいで」と隣のスペースをポンポン叩いた。
 速水さんが叩いた場所に座った。肩と肩が触れるぐらい近くて、速水さんの息遣いが聞こえた。
「ほら」と差し出してもらった速水さんの左手に触れると手を握られる。
 長い骨ばった指はいつも速水さんの男の人の部分を感じる。
 父のいない暮らしをしてたので、男の人に手を握られる事に慣れてなかった。
 緊張で手が汗ばんできそうで恥ずかしい。でも、速水さんの手を放したくない。
「この間の傷は治ったか?」
 心配するように速水さんがガラスで切った左の薬指を見た。
「薄く残っちゃったな」
「これぐらい平気です」
 むしろ傷を見る度に速水さんが手あてをしてくれた事を思い出せて嬉しい。
「君は不思議な子だな。俺の事が嫌いじゃなかったのか?」
 速水さんが伺うように私を見た。
「俺は君に酷い事をした男だぞ。そんな俺と一緒にいたいなんて」
「速水さん、母の墓参りに来てくれてますよね」
「……知ってたのか」
「はい。この間、お墓の前で泣いてる速水さんを見たんです」
 速水さんが笑い出した。
「変な所見られたな」
「速水さんも私と同じぐらい。いえ、それ以上に苦しい想いをしてるって知りました」
「……自分でも嫌になるぐらい冷淡になる時があるんだ」
 速水さんが苦しそうに眉間にしわを寄せた。
「仕事の為、金の為、俺はどんな酷い事もする。きっと俺がして来た事を知れば君は俺の事が大嫌いになるだろう。
俺だって大嫌いなんだ」
「……速水さん」
「でも、君の事は金の為じゃなかった。君を早くスターにしたかったんだ。そうすれば君の芝居を見てくれる人がもっと増えると思った。
俺は君が女優として高みに上っていく所を早く見たかった」
 速水さんが言葉を切り、険しい表情を浮かべた。
「お母さんを利用するような事をして、本当にすまない。君が俺に死んでもらいたいなら、俺は死ぬ。俺なんかの命で償える事じゃないのは
わかってるが、そうしたい気持ちなんだ」
「死ぬなんてやめて下さい!速水さんにそんな事してもらいたくありません!」
 腹が立った。私はちっとも死んで欲しいなんて思ってない。
「なんでそんな事言うんですか!これ以上私から大事な人を奪わないで下さい!」
「……大事な人?俺が?」
 信じられないものを見るような顔で速水さんが私をじっと見た。
「速水さんは私にとって大事な人です」
 速水さんの手をギュッと握った。
「マヤ、一体何があった?なんで俺をそんな風に思うんだ?」
「それは速水さんが……」

 紫の薔薇の人だから。

 そう言おうとしたけど、言えない。
 言ってしまったら匿名で援助してくれてる速水さんの気持ちを壊してしまう気がした。
 
「俺がなんだ?」
 速水さんが怖い顔をした。
「やっぱり言えません」
「どうして?」
「言いたくないんです」
 膝の上の繋がれた手に視線を落とした。触れてるだけで気持ちが伝わればいいのに。
 こんなにしっかりと手を繋いでても、言いたい事は何も伝わらない気がして、胸が苦しい。
 苦しさを吐き出すようにため息をつくと、隣でカチッとライターの音がした。
 速水さんの方を見ると空いてる方の手で煙草に火をつけていた。
 その器用な手の動きに思わず笑ってしまう。
「なんだ?」
 煙草の煙を吐き出した速水さんがやや不機嫌そうにこちらを見る。
「器用ですね。片手で」
「君が放してくれないから仕方ないだろ」
「迷惑ですか?」
 不安になる。
「いや」と言って、また速水さんは煙を吐いた。
「煙たくないか?」
 気遣うような優しい言い方に胸の奥がキュッと締めつけられるような想いを感じた。
「大丈夫です」と答えると速水さんが頬を緩ませフッと笑う。
「何ですか?」
「俺たちは何をしてるんだろうな」
 考えるように速水さんが流れる煙に目をやった。
「手をつないでます」
「そこがわからない」
「何がわからないんです?」
「俺の手を放さない君の気持ちだ」
「私もわかりません。ただ速水さんと離れたくないんです」
「困ったな」
「困りました」
「ずっと手を繋いでる訳にもいかないだろ。朝になれば俺は会社に行かなきゃならないし、君は学校があるだろう」
 胸がズキリと痛んだ。朝なんて来なければいいのに。
「そんな顔するな」
「だって……」
 涙が浮かんでくる。私、どうしたんだろう。速水さんと離れると思うと辛くて、辛くて……。
「マヤ」
 吸い殻を灰皿に押しつぶすと、速水さんが私を抱き寄せた。
 速水さんの胸に顔をあてると煙草の苦い匂いがした。
「離れたくないです……」
 溢れる涙と一緒に言葉にした。
「離れたくない……」
 何度も何度も同じ言葉を繰り返した。
 速水さんは黙って聞いててくれる。そして時々頭を撫でてくれる。
 その度に離れたくないって気持ちが強くなる。
 朝なんて来なければいいのに。ずっと速水さんとの時間が続けばいいのに。
 
 でも、どんなに強く望んでも朝は来た。
 
 速水さんの胸から顔を上げ、窓から入る朝陽を見た。
 部屋の灯りよりも外の方が明るくなっていた。

「そろそろ帰らないと」

 速水さんの言葉に胸が張り裂けそうになる。
 今度はいつ会えるのって、聞きたいけど聞けない。
 もう会えないと言われてしまう気がして、聞くのが怖かった。

「家まで送るから、君も仕度しなさい」
 
 速水さんが私から離れ、ソファから立ち上がる。さっきまであった速水さんの温もりがなくなって、
 不安な気持ちになった。気を抜いたらまた泣きそうなぐらい心が揺れていた。
 でも、速水さんは何事もなかったような涼しい顔をして上着に袖を通してた。
 こんな風に気持ちが揺れてるのは私だけ。
 そう思ったら、さらに寂しくて、胸が苦しくなる。

「帰るぞ」

 ソファに座ったままの私を速水さんが見る。

「帰りたくない」

 速水さんのうんざりしたようなため息が聞こえた。
「ちびちゃん、一体どうしたんだ?」
「帰りたくないんです」
「どうして?」

 速水さんが私の前に屈み、目線を合わせる。

「次がないから……」

「俺にまた会いたいのか?」

 力強く頷いた。

「じゃあ、今夜会うか?」
「え」
「夜だったら時間が作れると思う」
「本当に?」

 速水さんが頷いた。
 また今夜速水さんに会える。胸を締めつける寂しさが喜びに変わった。

「だから、帰ろう」
「はい」

 私たちは部屋を出た。



 アパートに帰った途端、眠くなった。
 麗は昨日から一角獣のメンバーと関西の方へ行ってていなかった。
 私も一緒に行きたかったけど、月影先生がみんなと芝居をする事をまだ禁じている。
 畳にごろんと横になり、速水さんの事を考えた。
 今夜会う約束をしたけど、今一緒にいない事が寂しかった。
 速水さんの事を好きだと気づいてからそんなに経ってないのに、気持ちがさらに大きくなっていた。
 服についた速水さんの煙草の匂いに気づく度に恋しい気持ちが膨らむ。
 私はどうしちゃったんだろう。こんなに誰かと離れたくないって思う事今までなかった。
 一人は平気だったのに、今は平気じゃない。
 


「北島!一体今何時だと思ってるんだ!」

 学校に行くと担任に怒られた。体育の教師だけあって声だけは大きい。
 寝不足の頭にダミ声が響いて頭痛になりそう。
 でも、寝坊した私が悪い。

「12時半です……」

 恐る恐る口にすると、バッカモーン!という声がさらに大きな声で響いた。
「連絡もなしで遅刻するなんて、社会人になったら許されない行為だぞ!」
「す、すみません。以後気をつけます」
「すぐに校庭20周走って来い」
「はい」
 職員室から出て行くと、クラスメイトの今日子ちゃんがいた。
「ヤマセンなんだって?」
 心配そうな様子で今日子ちゃんが聞いてくる。
「校庭20周だって」
「ありゃりゃ、あいつ走らせるしか能ないねー」
 呆れたように今日子ちゃんが口にする。
「仕方ないよ。遅刻しちゃったんだから」
 ほんの少しだけのつもりで部屋で横になっていたら11時半過ぎまで寝てた。
 頭はスッキリしたけど、とんでもない遅刻をして生きた心地がしなかった。
「一緒に走ってあげるよ」
「いいの?」
「うん。部活がなくなって体がなまってたんだ」
 3年生は部活から引退し、ほとんどの学生が受験勉強に集中してた。
「それにマヤちゃんに聞きたい事もあるしね」
 好奇心いっぱいの笑みを今日子ちゃんが浮かべた。


 紺色のジャージに着替えて運動場に出ると私は今日子ちゃんと一緒に走り出した。
「この間の話はどうなったの?」
 早速今日子ちゃんが聞いてくる。
「この間って?」
「雨の中で告白した人よ」
 うっかり今日子ちゃんに速水さんの事を話したのは失敗だったかもしれない。
 でも、あの時は誰かに話を聞いてもらいたいぐらい苦しくて、私は今日子ちゃんに雨の日の事を話してた。
「べ、別にどうもしないよ」
「そうかな?何か進展あったんじゃないの?例えば今夜会うとかさ」 
 今日子ちゃんの鋭さに感心してしまう。今日子ちゃんは恋の話になると超能力者みたいに何でも言い当てる。
「やっぱりそうなんだ」
「な、何が?」
「今夜会うんでしょ。いやらしい。隠したりして」
「べ、別にいやらしい事なんて何も……」
「何もないって言えるの?」
 速水さんと二人きりでホテルに泊まった事はもしかしたら、物凄く不味い事だったかもしれない。
 しかも同じベッドで寝てた。
「マヤちゃん、顔、真っ赤だよ」
「えっ!」
「やっぱり会うんでしょ?という事は両想いだったの?」
 両想いと言われてわからなくなる。
 速水さんはどうして私に会ってくれるんだろう?
「わからない。ただ、会いたいって私が言ったから、会ってくれるんだと思う」
「それって両想いって言うんじゃないの?」
「ち、違うよ」
「じゃあ、なんでマヤちゃんに会ってくれるのよ?」
「なんでだろう?」
「もうっ、私が聞いてるの!」
 苛立ったように今日子ちゃんが口にする。
「だって、わからないから」
「もしかしてマヤちゃん、告白しといて気持ち聞いてないの?」
「うん」
「なんで?知りたくないの?」
「知りたいけど……でも、怖いよ。それに告白なかった事にしちゃったから」
「えーーー!なんでーーー!」
 今日子ちゃんが立ち止まり私の腕を掴んだ。
「なんでそういう事するの!相手の人に失礼だよ」
 失礼と言われてムッとする。
「だって私の告白悪戯だと思ったのは速水さんだよ!だから、悪戯だったって言うしかないじゃない。
 速水さんは私の事、子供としてしか思ってないんだもん。11も年上で、社長で、冷血漢って言われてて」
 段々悲しくなってくる。口にすればする程、速水さんが遠い人のように思えてきた。
「でも、会ってくれるんでしょ?」
「うん」
「社長さんならきっと忙しいよね?」
「うん。滅茶苦茶忙しい」
「だったら、忙しい中時間作ってくれるぐらいにはマヤちゃんの事思ってくれてるんじゃないの?」
 今日子ちゃんの言葉に少しだけ心が軽くなる。
「マヤちゃんは速水さんの気持ち知りたくないの?」
 知りたくない訳ない。本当は私の事をどう思ってるか聞いてみたい。
「でも」と渋る私の背中をバンッ!と今日子ちゃんが叩いた。
「しっかりしなさい!あなたは女優でしょ!沢山の人にお芝居を見てもらうんでしょ?こんな事ぐらいで怖気づいてどうするの?」
「だって……」
「もう、マヤちゃんて本当、舞台降りるとダメね。そんなんじゃ『紅天女』は出来ないよ」
 ハッとした。
 確かに今日子ちゃんの言う通りかもしれない。こんな事でイジイジと悩んでたら、紅天女にはなれない気がした。

「わかった。今夜聞いてみる」


つづく
 
 



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2016.7.21





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