優しい月に流れ星―Act.1 事件発生―
AUTHOR たまニャン
番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えいたします。 ただいま、入ってきたニュースです。 ペルーの首都リマ市郊外で、日本のテレビ局の撮影スタッフや番組出演者らが強盗に遭い、 撮影機材を奪われ、更に視察に訪れていた芸能会社社長が、拉致されたとの情報がはいりました。 現地支局員に拠りますと、現地時間の今日、午後2時半ごろ、番組スタッフらが同市内の劇団スタジオで撮影中、 3人組の武装した強盗が、銃を乱射しながら侵入。出演者らに銃口を向け数発を威嚇射撃し、 視察に訪れていた大都芸能社長を人質に取り、白いワゴン車に乗り逃走。 現場には番組関係者のほか、地元の子供達や劇団員など約20人が居り、 撮影カメラ3台、マイク、レンズなど撮影機材も全て奪われた事がわかりました。 現場はリマ市の郊外で、一部地域において治安が悪化していました。 その後、武装グループの犯行声明が動画サイトに発表され、身代金の請求があった模様です。 詳しい情報が入り次第、またお知らせ致します。 テレビから流れるニュースを聴きながら、マヤは先程から続く身体の震えが一層強くなるのを感じた。 「マヤちゃん、大丈夫?」 水城がマヤの震える手をしっかり握ると、マヤは瞳を見開き大粒の涙を流した。 「マヤさん、しっかりするんだ」 その場で同じくテルビを観ていた英介も声を掛けるが、マヤの視線は定まらず、 ただ、ただ涙を流し糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。 「マヤちゃん!」 水城はマヤの華奢な身体を抱き抱えた。 (無理もない・・・) 先日、イスラ??国による邦人人質殺害事件がニュースになったばかりである。 大都芸能に寄せられた第一報を聞いた時、水城にも最悪の事態が頭に浮かんだのだ。 報告と英介の指示を仰ぐため、とるものも取り敢えず速水邸に駆けつけた水城であった。 「おい、朝倉、車を用意しろ!外務省に出向く」 英介が側に控える執事に指示をだす。 「しかし、御前。先程からマスコミが詰め掛けて居りますが・・・」 「警察に連絡して規制を掛けろ!」 犯行声明は、YouTubeにアップされた為、報道規制は間に合わなかった。 その画像には、後ろ手に拘束された真澄本人と思われる姿が映っていた。 速水邸の前にはカメラやマイクを持ったマスコミの取材陣が、ごった返している。 「電話では拉致があかん。外務省に出向き今後の方針を定める!水城!マヤさんを頼む!」 そう言っている合間にも、チャイムが引っ切り無しに鳴らされ、普段は閑静な高級住宅街が蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。 「ええい!待ってられん!早く車をだせ!」 今出て行けばマスコミに捕まるのは、目に見えている。しかし、手をこまねいている場合でも無かった。 「御前、せめて警察が来るまでお待ちください!」 「うるさい!早くせんか!」 苛立つ英介は、ドンっと車椅子の肘掛けに握り拳を叩きつけ、眼光鋭く朝倉を睨めつけた。 「は、はい」 朝倉は英介に根負けし、車椅子を反転させると、玄関先へ向かおうとした。 「待って!待って下さい、御父様。あたしが行きます。あたしに、行かせて下さい・・・」 マヤだった。 「駄目よ、マヤちゃん。あなたそんな身体で、どうしようっていうの?」 それまで身体に全く力が入らず、生きる屍の様だったマヤが水城の胸元でもがいた。 「マヤさんは、ここで待っておって下さい。おい、朝倉!」英介は、構わず出て行こうとする。 マヤが、水城の制止を振り切り、英介の膝に縋り付く。 「お願いです。御父様、あたしが行きますから、御父様はその隙に裏口から、出て下さい・・・!」 「しかし・・・」 「私が、速水真澄の妻です!お願いです、やらせて下さい!」 「マヤさん」「マヤちゃん」 英介と水城が顔を見合わせた。 「本当に、大丈夫?マヤちゃん」 「ありがとう、水城さん・・・ 大丈夫、大丈夫ですから」 涙を拭き、身なりを整える。 顔色は青ざめ、手も震えたままだ。 それでも、気丈に出て行く。 ピンポーン、ピンポーン。 「チッ、無しの礫かよ」 「誰か出て来いよな」 「使用人でも良いから、コメントとれねーかな」 玄関前に集まったマスコミは、収まりそうに無かった。 と、その時、 ガチャリ と、玄関のドアが開いた。 「あ、おい!出て来たぞ!」 「北島マヤだ」 「カメラ、こっちだ!」 「えっ??」 姿を現した、マヤを見てそこに集まった報道陣は皆、一様に黙り込んでしまった。 北島マヤと言えば、紅天女の舞台、朝の連続ドラマ出演、大都芸能社長との結婚などなど、 話題に事欠かない女優であったが、人気の絶頂期に突然休業を発表していた。 そして、久しぶりに彼女を見てその理由が解った。ゆったりした服を着ているにも関わらず、腹部が異様にせり出していたからだ。 もう、出産間近に思われた。 「みなさん」 はっと呪縛から解かれたようにカメラのフラッシュが焚かれ、マイクが次々と差し出された。 「北島さん!コメントお願いします!」 「犯行グループからその後連絡はありましたか?」 「身代金は払われるんでしょうか?」 「社長の安否については?」 「大都の株価が下がってるそうですが・・・」 矢継ぎ早に質問が飛ぶ。 「みなさん、どうか落ち着いて下さい。今のところ、発表されている状況に変わりはありません。 ですが、速水も、大都もご心配には及びません」 「どうして、そんな事が言えるんですか?安否の確認は取れたんですか??」 「いいえ、まだです」 「じゃあ、身代金を払うって事ですか?」 「それについては、お話し出来ません」 「じゃ、何で・・・」 質問をしようとした者を、キッと目線で制すと、 「第一に、大都は速水ひとりの会社ではありません。優秀なスタッフが沢山おりますし、英介もおります。 速水が居なくとも揺らぐ事はありません。第二に速水は必ず生きて戻ります」 と言い切った。 「速水真澄が、北島マヤを、そして・・・この子を残して逝く訳がありません」 マヤは大きくなったお腹に手をやり愛おしそうに微笑んで見せた。 それは、女優北島マヤでも、素顔のマヤでも無い、速水真澄の妻、速水マヤの姿であった。 その場がシンと静まりかえる。皆圧倒されていたのだ。 それを見てとった水城が、充分時間を稼いだと判断し、マヤの手を引いた。 「良くやったわ、マヤちゃん。立派だったわよ。さ、後は御前にお任せしましょう」 マヤを庇うようにしてドアを閉めた。 大都芸能社長誘拐のニュースと、マヤのその時の映像は、瞬く間に日本中に広まったのである。 ・・・to be continued |
【Catの一言】
たまニャンさん、ご投稿ありがとうございました。
緊迫した展開に続きが楽しみです。
2015.2.24
Cat